四季を染め自然を織る
万葉集からいまに伝える自然の恵み日本の色
日本古来から伝わる植物染料による本物の色の美しさと薬効を伝える
150年しか歴史がない化学染料と違って5千年以上の歴史がある草木染。
1200年前の奈良時代の正倉院宝物の染織品は、すべて草木染であり歳月を経た今でも
美しい色を保っています。
本来の染織の植物染料には、健康を保つために使われる薬草が多く、
薬効を皮膚吸収させる効果や悪霊を退ける効果がありました。
日本と台湾の薬草の歴史に触れる
昔、日本では、漢方薬は中国から輸入しており高価だったため身近な薬草や天然物を利用して
様々な知識・経験が言い伝えられました。こうして利用された薬草などを民間薬といいます。
台湾でも、実に1000種を越える薬草が自生しており、古くは日本統治時代から
薬草の研究が行われていて、当時の薬草園がいまだ残っています。
そして、現在でも100年近い歴史をもつ青草店では代々伝わる秘法があり、
薬草を煮詰めて作った汁を飲んで病気を治した民間診療の貴重な場です。
薬草の歴史だけをとっても、日本と台湾の長い繋がりを感じます。
例えば、台湾では古くからお茶の実(茶籽)を生活の様々な場で利用しており
お茶の実を絞ってできた茶油はうるおい豊かな油として、搾りかすの茶苷は石鹸などの
洗浄剤として利用されています。
台湾の人々が、日々の生活の中で薬草を利用し栽培されていることを知りました。
日本ではなくなりつつある伝承されてきた薬草の知識や昔の日本人の心を台湾の人々から教わり
自然の力を上手に生活に利用し、風土に合った暮らしに必要な生きる知恵を学ぶきっかけに
なればと思います。
和種紫根で染めた着物から伝える薬用植物を育てる活動への想い
染料である和種紫根は、乾燥したムラサキ草の根であり、八日市南高校で栽培された
貴重な絶滅危惧種の薬草です。
ムラサキ草は栽培が難しく日本ではほぼ採れないため、紫根染のほとんどが
化学染料を併用して染めています。
私の作品には乾燥した和種紫根を5キロも使用しており、100%和種紫根染です。
現代の染織で、このような貴重な和種紫根の染織を見ることはできません。
1200年前の染織を再現した高貴な本物の色を、
ぜひとも広く皆様にご覧いただく機会を持っていただけたら幸いです。
薬草に親しみ 自然の持つ癒しの力で 羽織るものから健康に!
薬に関する言葉は、なぜか着るものである「服」という字が使われています。
古代中国で編纂された地理書『山海経(せんがいきょう)』に、
「服」という字の語源といわれている記述があります。
「外服」 薬草などを「衣服」のように体にまとい病気の原因となる邪気を払うこと。
「内服」 体の中に入れて体内で邪気を防ぐこと。
「服用」 食べることや、茶、薬を飲むこと。昔は、お茶は薬用として寺院から一般に広まりました。
神農とは古代中国の神で、身近な草木の薬効を調べるために自らの体を使って草根木皮を嘗め
何度も毒にあたっては薬草の力で甦ったといわれています。
こうして発見した薬によって多くの民衆が救われ、神農は薬祖神として祀られるようになりました。
日本では少彦名神が、薬の神として「神農さん」と呼ばれ
大阪の道修町の少彦名神社に祭られているほか
日本最古の神社と称されている奈良の大神神社に、大物主神を主祭神とし、
大己貴神と少彦名神が配祀されています。
台湾でも神農大帝様として、医学・薬の神で農業や商業の神様としても信仰されています。
薬草の歴史だけをとっても、日本と台湾の長い繋がりを感じます。
現代の日本は、大量消費社会で便利で快適なもの、流行のものが安く手に入ります。
しかし、繊維産業における化学染料は深刻な水質汚染を引き起こして
生産者の体に染みついた化学染料は有毒です。
購入して着た人も化学薬品のアレルギーに苦しむ人が多くなっています。
最近では化学染料や化学薬品に対する人々の不信と警戒から、
天然薬物、特に薬草への関心が高まり、植物製品や植物染料が再び注目されています。
その背景には、消費者の生活意識が向上し、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさ、
本当に良いものを求める意識に変わってきたと言えます。
日本語には、「もったいない」という言葉があります。
「勿体」(もったい)とは、世の中のすべてのものは繋がりあって成り立っている、
単独で成り立っているのではないという仏教の言葉です。
もったいないは、繋がりあって成り立っているせっかくの縁を断ち切って空しくしてしまう行い。
私たちと繋がり、共に生きているすべての「いのち」を粗末にする、
あるいはものを生かすことをしない行いです。
ただ、「物」を大切にするだけではなく、私たちと繋がりあって生きている森羅万象の「いのち」を
大切にする行為が「もったいない」です。
昔は物を大切にして心豊かに生きてきた日本人。
日本人と歴史の歩みを共にし、日本人の心を習い受け継いでこられた台湾の人々からぜひ
いまも暮らしの中で伝承されている、植物とともに生きる知恵を学びたいと思います。
草木染の着物展示に込める想いは、「外服」が染色のもともとの意味であり、
薬草を使って薬効を皮膚吸収させて健康を保つ効果があったことから
先人の知恵を見直し、人の健康と環境への優しさにつながる暮らしを考えるきっかけになればと
思います。